【危険球退場の判定基準】NPBのルールとMLBとの違い
戸郷の退場をめぐって注目されたのが、「頭部にボールが当たれば必ず退場になるのか」という疑問だ。
実は、NPBの危険球退場には、一般に考えられているよりも複雑な判断基準がある。
危険球退場は公認野球規則に書かれているのか
元パ・リーグ審判員の山崎夏生氏は、2023年の週刊ベースボールONLINEの解説で、危険球退場について次のように説明している。
危険球退場は、公認野球規則そのものではなく、NPB独自の申し合わせ事項(内規)に基づく制度である。
パ・リーグの申し合わせ事項では、投球が打者の顔面、頭部、ヘルメットなどに直接当たり、審判員が危険球と判断した場合、投手は即退場となる。
重要なのは、頭部に当たったという事実だけで自動的に処分が決まるわけではないことだ。最終的には審判員による危険性の判断が必要になる。
危険球判定の基本的な仕組み
判断のポイントを整理すると、次のようになる。
| 判断項目 | 基準・考え方 |
|---|---|
| 頭部への直接投球 | 顔面・頭部・ヘルメットなどへの投球を危険球として判断する場合がある |
| 危険性の判断 | 審判員が打者の選手生命に影響する危険な投球と判断する |
| 故意の投球 | 明らかに打者を狙ったと判断された場合、実際に当たらなくても処分対象になる |
| ベンチからの指示 | 「当てろ」などの発言後に危険な投球があれば、監督も処分対象になる場合がある |
| 退場処分 | 危険球と判断された投手は即退場となる |
特に押さえておきたいのが、故意性と危険性は必ずしも同じではないという点だ。
投手が意図的に当てようとしたかどうかとは別に、頭部への危険な投球と審判員が判断すれば、退場処分につながる。
したがって、戸郷のケースを「故意に紅林を狙った」と解釈するのは適切ではない。公表された判定内容は危険投球による退場であり、故意の認定とは別の問題である。
NPBの危険球退場が導入された歴史
危険球退場の背景には、過去の報復死球や乱闘問題がある。
週刊ベースボールONLINEの山崎氏の解説によると、制度のきっかけとなったのは1994年5月のヤクルト対巨人戦で起きた大乱闘だった。
その後の経緯は次のとおりだ。
- 1994年: セ・リーグが頭部への死球を危険球として扱う内規を導入。
- 1995年: すっぽ抜けの変化球まで退場となる事例が相次ぎ、球速などを踏まえて判断する運用に変更。
- 2002年: セ・パ共通の内規として運用されるようになる。
- 2005年: 西武対巨人戦では、両チームの死球が続いたことから警告試合が設定され、通常とは異なる厳しい退場措置が適用された。
この歴史を見ると、危険球退場は単に頭部への死球を罰する制度ではなく、報復行為や選手間のトラブルを防ぐために発展してきた仕組みだと分かる。
2023年の上沢直之のケースとの違い
判断基準を理解するうえで参考になるのが、2023年4月15日の日本ハム対西武戦だ。
日本ハムの上沢直之投手が西武の外崎修汰に117キロのカーブを投げ、ヘルメットの後頭部付近に当たった。
頭部への死球だったが、審判団は危険球退場を宣告せず、上沢は続投した。
この事例を紹介した日刊スポーツによれば、抜けた変化球だったことや、運用ガイドラインに抵触する要素がなかったことなどが判断材料になったとみられる。
つまり、頭部に当たったという結果だけでは、必ずしも危険球退場にならない。
今回の戸郷のケースでは、審判団が協議した結果、危険投球と判断したことが決定的な違いとなった。
NPBとMLBの危険球退場はどう違う?
日本とアメリカでは、危険な投球に対する規則の構造が異なる。
| 比較項目 | NPB | MLB |
|---|---|---|
| 制度 | 危険球に関する独自内規 | 公認野球規則6.02(c)(9)など |
| 頭部への死球 | 審判員が危険球と判断すれば即退場 | 頭部に当たっただけで一律に自動退場となる制度ではない |
| 故意の投球 | 明らかに狙った場合は当たらなくても処分対象 | 故意に打者を狙った投球は禁止 |
| 審判の権限 | 危険球かどうかを判断 | 投手の退場、警告などを判断 |
| 警告制度 | 警告試合などの特別運用がある | 両チームへの警告と再発時の退場措置がある |
MLB公式の2025年版公認野球規則6.02(c)(9)では、打者を故意に狙う投球を禁止している。
審判は状況に応じて投手や監督を退場させることができ、警告を出した場合には、同様の投球が再び行われた際に即時退場とすることもできる。
ただし、NPBのように頭部への直接死球を対象とする独立した危険球退場の内規があるわけではない。
この違いは、危険な投球を軽視しているかどうかではなく、処分の適用方法と制度設計の違いとして理解すべきだ。
【プロの結論】戸郷翔征の2026年成績と投球フォームを検証
危険球退場だけで戸郷の投手としての実力や制球力を評価することはできない。
2026年は開幕前から不振に苦しみ、投球フォームの変更にも取り組んでいた。6月3日のアクシデントを考えるうえでも、シーズン全体の変化を確認することが大切だ。
2026年10月時点の最新成績
NPB公式の2026年度個人成績で確認できる戸郷の一軍成績は次のとおり。
戸郷翔征|2026年一軍成績
防御率
勝敗
奪三振
WHIP
| 詳細項目 | 2026年成績 |
|---|---|
| 登板・先発 | 14試合・14先発 |
| 投球回 | 80回 |
| 被安打 | 58 |
| 被本塁打 | 9 |
| 与四球 | 24 |
| 与死球 | 9 |
| QS | 7 |
| 奪三振率 | 9.23 |
数字を見ると、防御率2.48、WHIP1.03と一定の安定感を示している。
一方で、14試合80イニングという登板数にとどまり、規定投球回には到達していない。シーズンを通じてフル稼働した成績ではないことも評価の際に考慮したい。
また、与死球9という数字も確認できる。ただし、これは打者への死球の総数であり、すべてが頭部への投球や危険球だったわけではない。
2025年の不振から2026年の復調へ
戸郷は2022年から2024年まで、3年連続で12勝を記録した実績を持つ。
2022年と2024年には最多奪三振のタイトルも獲得。巨人の先発陣を代表する投手として評価されてきた。
しかし、2025年は21試合で8勝9敗、防御率4.14。前年までの安定感を失い、苦しいシーズンとなった。2026年の開幕も一軍ではなく、二軍からのスタートだった。
そこで取り組んだのが、投球フォームの修正だった。
投球フォーム変更のポイントは右脚の押し込み
2026年5月、テレビ朝日の報道ステーションなどで紹介されたのが、久保康生巡回投手コーチと取り組んだフォーム変更だ。
戸郷が意識したのは、右脚の押し込みだった。
本人は投球フォームの修正について、次のように説明している。
「右脚の押し込みはすごく意識していますし、ロスなく前脚に力がいくようにと今は意識しています」
従来のフォームでは、ストレートの球速低下が課題となっていた。2026年春にはオープン戦で結果を残せず、開幕二軍という厳しい状況に置かれていた。
久保コーチの指導のもと、下半身から前脚へ力を伝える動作を見直した結果、5月19日のヤクルト戦では7回115球、5安打無失点の好投を披露。最速153キロも計測し、今季初勝利を手にした。
危険球退場後の登板で見せた驚きの結果
今回の危険球退場を考えるうえで、特に注目したい試合が6月10日の楽天戦だ。
戸郷は6月3日のオリックス戦でわずか14球で降板した後、次の登板となった楽天戦で見事な投球を披露した。
- 投球回:9回
- 被安打:5
- 奪三振:14
- 失点:0
- 試合結果:巨人7対0楽天
2年ぶりの完封勝利に加え、自己最多となる14奪三振を記録した。
日刊スポーツなどの報道でも、戸郷の復調を印象づける登板として紹介された。
この結果は重要だ。
6月3日の危険球は、少なくともその後の登板で長期的な制球難が続いたことを示すものではない。翌週には圧倒的な投球を見せている。
ただし、6月10日の好投だけでフォーム修正が完全に成功したと断定することもできない。
【プロの結論】危険球1球と投手の制球力は分けて評価する
戸郷の2026年を評価する際には、次の3つの視点が欠かせない。
1. 危険球退場は一球の危険性に対する判定
14球での降板は事実だが、初回を三者凡退に抑えていたことも事実だ。退場という結果だけで、その日の投球全体を制球難と評価するのは正確ではない。
2. フォーム修正の成果はシーズン全体で見る
右脚の押し込みを意識したフォーム変更、5月の153キロ計測、6月10日の14奪三振完封など、復調を示す材料は複数ある。
3. 成績の評価には登板数も必要
防御率2.48は評価できる数字だが、14登板80イニングという条件も無視できない。今後の安定性や稼働率まで含めて判断する必要がある。
戸郷の危険球退場は、投手としてのキャリアを否定する出来事ではない。一方、頭部への投球が打者に与える危険性は、結果的に大事に至らなかったとしても軽視できない。
投手としての実力、制球力、危険球に対する責任は、それぞれ別の観点から評価することが重要だ。
【戸郷危険球】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:戸郷翔征が危険球退場になったのはいつですか?
A1:2026年6月3日の巨人対オリックス戦(東京ドーム)です。2回表、紅林弘太郎への初球のフォークが頭部に当たり、審判団が危険投球と判断しました。
Q2:戸郷翔征の危険球退場は初めてだったのですか?
A2:はい。報道によると、プロ148試合目で初めての危険球退場でした。1回を三者凡退に抑えた後、14球で降板しています。
Q3:紅林弘太郎は頭部死球の後、どうなりましたか?
A3:処置を受けた後に試合へ復帰し、フル出場しました。本人は側頭部をかすったような感覚だったと説明し、翌日以降の出場にも意欲を示していました。
Q4:戸郷翔征は紅林に直接謝罪したのですか?
A4:試合後に謝罪のコメントを出し、翌日も謝罪に向かおうとしました。ただし、6月4日は時間が合わなかったと報じられています。
Q5:頭部に死球を与えると必ず危険球退場になりますか?
A5:必ずではありません。NPBでは審判員が危険球と判断する必要があります。頭部に当たっても危険球退場にならなかった過去の事例があります。
Q6:戸郷翔征の2026年の成績はどうなっていますか?
A6:NPB公式の2026年度成績では、14登板、5勝3敗、防御率2.48、80投球回、82奪三振です。
まとめ:戸郷危険球退場から見える責任と2026年の現在地
2026年6月3日の巨人対オリックス戦で起きた戸郷翔征の危険球退場は、プロ148試合目にして初めての出来事だった。
紅林弘太郎への初球のフォークが頭部に当たり、白井一行球審を中心とした審判団の協議によって退場が決定。わずか14球での降板となり、森田駿哉が緊急登板する展開になった。
戸郷は試合後と翌日に謝罪の気持ちを表明。紅林は処置後に復帰し、フル出場を果たした。
一方、戸郷自身はその後の楽天戦で14奪三振の完封勝利を挙げ、2026年10月時点のNPB公式成績でも防御率2.48を記録している。
今回の件から読み取れるのは、危険球退場という処分と、投手の実力評価は分けて考える必要があるということだ。
【最終的なポイント】
- 退場理由は紅林への頭部死球に対する審判団の危険球判定。
- 戸郷に故意の投球が認定されたという事実は確認されていない。
- 紅林は試合に復帰し、フル出場した。
- 戸郷は謝罪の意思を示し、その後の登板でも好投した。
- 2026年は防御率2.48、5勝3敗、82奪三振でシーズンを終えている。
一球の失投が選手の安全を脅かすこともあれば、長年築いてきた評価に影響することもある。だからこそ、危険球の判定は厳正に行われる必要がある。
戸郷に求められるのは、今回の経験を今後の投球に生かし、持ち味である力強い直球とフォーク、そして安定した制球力を取り戻し続けることだ。紅林の無事と、両選手の今後の活躍を願いたい。 (出典: 戸 郷 危険 球(Yahoo!ニュース))