延命治療とは何か?種類・費用・中止の判断と本人の意思の伝え方を徹底解説
延命治療とは、病気や事故などによって生命の維持が難しくなったとき、人工呼吸器や胃ろう、心肺蘇生、人工透析などの医療によって生命をつなぐ治療を指す一般的な言葉です。回復を目指す治療として行われる場合もあれば、病気の進行によって回復が難しい状況で、生命を維持することを主な目的として行われる場合もあります。
延命治療を考えるとき、多くの人が悩むのは「どこまで治療を続けるべきか」「本人が意思を伝えられなくなったら誰が判断するのか」「治療を受けない選択はできるのか」という問題です。2026年9月には、日本集中治療医学会など4学会が救急・集中治療における生命維持治療の終了や差し控えに関する新たな合同ガイドラインを公表し、本人の価値観を尊重した意思決定のあり方を改めて示しました。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 延命治療の意味:人工呼吸器、胃ろう、心肺蘇生などによって生命を維持する医療であり、すべてが終末期だけに行われるわけではない。
- 費用と選択肢:治療内容や入院期間、保険適用、所得によって自己負担額は異なり、高額療養費制度も利用できる。
- 本人の意思:ACP(人生会議)、リビングウィル、事前指示書などを活用し、希望する医療や受けたくない処置を事前に共有できる。
【基本知識】延命治療とは?意味・目的と救命医療との違い
延命治療の意味と目的
延命治療とは、身体の重要な機能が低下した患者に対して、医療技術や医療機器を使い、呼吸・循環・栄養など生命を維持するための働きを補う医療の総称として使われています。
代表的なものには、人工呼吸器による呼吸管理、胃ろうや点滴による栄養・水分補給、心肺蘇生、人工透析などがあります。
ただし、医学的に「延命治療」という言葉に明確な境界線があるわけではありません。同じ人工呼吸器でも、肺炎などからの回復を目指して一時的に使用する場合と、自力で呼吸することが難しい患者の生命を長期的に維持する場合では、治療の目的が異なります。
2026年9月に公表された救急・集中治療に関する4学会合同ガイドラインでも、「延命治療」という言葉は、根治を目指す治療と生命維持を主な目的とする治療を明確に区別できないことから、使用を避けています。
この点からも、特定の医療行為を一律に延命治療と決めつけるのではなく、患者の病状や回復の可能性、治療の目的を踏まえて考える必要があります。
延命治療と救命医療は何が違う?
救命医療は、病気や事故などで生命が危険にさらされた患者を救い、回復させることを目的とする医療です。たとえば、重症肺炎によって呼吸ができなくなった患者に人工呼吸器を使用し、感染症の治療と並行して肺の回復を目指すケースが該当します。
一方、一般に延命治療と呼ばれる医療は、病気の根治や身体機能の回復が難しくなった状況で、医療的な介入によって生命を維持することに重点が置かれる場合を指します。
両者は完全に分離できるものではありません。治療を始めた時点では回復を目指していても、経過によって回復の可能性や治療の目標が変わることがあります。
重要なのは、治療を受けているという事実だけで延命治療と判断せず、現在の治療が何を目指しているのかを確認することです。

【治療の種類】人工呼吸器・胃ろう・心肺蘇生など代表的な医療処置
延命治療として話題になる医療処置は、呼吸を支えるもの、栄養や水分を補給するもの、心臓や血液循環を維持するものなどに分けられます。それぞれ身体への負担や期待できる効果、継続期間が異なります。
人工呼吸器による延命治療
人工呼吸器は、自力で十分な呼吸ができない患者に対し、機械によって呼吸を補助したり代行したりする医療機器です。肺に酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する働きを支えます。
使用方法には、大きく分けて侵襲的人工呼吸療法と非侵襲的人工呼吸療法があります。
- 侵襲的人工呼吸療法:口や鼻から気管にチューブを挿入する気管挿管、または気管切開によって気道を確保し、人工呼吸器につなぐ方法。
- 非侵襲的人工呼吸療法:鼻や口を覆うマスクを装着し、気管にチューブを入れずに呼吸を補助する方法。
人工呼吸器は、重症肺炎や心不全、呼吸不全などからの回復を目指す際にも使用されます。一方、神経筋疾患などによって自力で呼吸することが難しい患者が長期間使用する場合もあります。
気管挿管中は会話が難しくなることがあり、鎮静薬の使用や痰の吸引などが必要になる場合もあります。長期的な管理が必要になれば、気管切開を検討することもあります。
家族が確認しておきたいのは、人工呼吸器によって呼吸状態が改善する見込み、離脱できる可能性、長期使用になった場合の生活環境や介護体制です。
胃ろう・経管栄養による栄養補給
食べ物を口から十分に摂取できなくなった患者に対して、チューブなどを使って栄養や水分を補給する方法が経管栄養です。
代表的な方法が胃ろうです。腹部に小さな穴を開けて胃にチューブを通し、そこから直接栄養剤や水分を注入します。内視鏡を使用して造設する方法は、PEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術)と呼ばれます。
経管栄養には、胃ろう以外にも鼻から胃までチューブを通す経鼻胃管や、腸にチューブを通す腸ろうがあります。
また、静脈から栄養を補給する方法もあり、末梢静脈栄養や中心静脈栄養が代表的です。
ここで注意したいのは、胃ろうが必ずしも終末期の延命措置ではないという点です。国立長寿医療研究センターによると、病気による一時的な栄養不足を改善し、体力を回復させてリハビリテーションにつなげる目的で胃ろうを使用することもあります。口から食べられるようになれば、胃ろうを抜去できるケースもあります。
したがって、胃ろうを勧められた場合は、単に栄養を補給するためなのか、回復やリハビリを目指すためなのか、長期的な生命維持が目的なのかを確認することが大切です。
心肺蘇生・心臓マッサージ
心肺蘇生は、心臓や呼吸が停止した患者に対して、心臓の動きを再開させ、血液や酸素を全身に送り届けるために行う救命処置です。
主な処置には次のものがあります。
- 胸骨圧迫:胸の中央を繰り返し圧迫し、血液を全身に送り出す。
- 人工呼吸:肺に空気を送り込み、酸素の供給を補助する。
- 除細動:AEDなどを使って、特定の不整脈による心停止からの回復を目指す。
- 薬剤投与:心臓の働きや血圧を支える薬剤などを使用する。
心肺蘇生は、回復可能な心停止に対して救命を目指す重要な処置です。ただし、胸骨圧迫によって肋骨などが骨折する場合もあり、心拍が再開したとしても、必ずしも意識や身体機能が元の状態に戻るとは限りません。
人生の最終段階において心停止時の蘇生を希望するかどうかは、事前に本人の価値観や病状を踏まえて話し合っておくことが望まれます。
その他の生命維持に関わる治療
人工呼吸器や胃ろう、心肺蘇生以外にも、生命維持に関係する医療処置があります。
- 人工透析:腎臓の働きが著しく低下した場合に、血液中の老廃物や余分な水分を取り除く。
- 中心静脈栄養:中心静脈から栄養を補給し、口から食事を摂取できない患者の栄養状態を支える。
- 昇圧薬:血圧が低下した患者の循環を維持するために使用する。
- 輸液:水分や電解質などを補給し、身体の状態を維持する。
- 補助循環装置:心臓や肺の機能が著しく低下した場合に、血液循環や酸素供給を補助する。
これらの処置も、病気の種類や治療目標によって位置づけが変わります。
延命治療の種類と特徴の比較
| 医療処置 | 主な目的・方法 | 確認したいポイント |
|---|---|---|
| 人工呼吸器 | 機械で呼吸を補助・代行する | 回復の可能性、離脱の見込み、長期管理の必要性 |
| 胃ろう・経管栄養 | チューブを通して栄養や水分を補給する | 栄養改善やリハビリの可能性、継続期間 |
| 心肺蘇生 | 胸骨圧迫や除細動などで心拍再開を目指す | 蘇生後の予後、本人が望む救命処置 |
| 人工透析 | 血液中の老廃物や水分を除去する | 腎機能、治療による効果と身体的負担 |
| 中心静脈栄養 | 静脈から必要な栄養を補給する | 栄養状態、感染リスク、治療の継続期間 |
| 昇圧薬・補助循環 | 血圧や血液循環を維持する | 心臓や循環機能の回復見込み、治療目標 |
【費用の実態】延命治療にかかる医療費と高額療養費制度
延命治療の費用に一律の金額はない
延命治療にかかる費用は、使用する医療機器や処置、入院期間、治療を受ける医療機関、患者の年齢や所得などによって異なります。
人工呼吸器を使用する場合でも、短期間の集中治療と長期間の人工呼吸管理では医療費が大きく異なります。胃ろうについても、造設手術だけでなく、栄養剤やチューブの管理、定期的な交換、合併症への対応などが関係します。
そのため、「延命治療は月額いくら」と一律に説明することはできません。実際の自己負担額は、保険診療の対象範囲や自己負担割合を確認したうえで見積もる必要があります。
2026年の高額療養費制度で自己負担を軽減できる
日本の公的医療保険には、高額療養費制度があります。これは、医療機関や薬局で支払う保険診療の自己負担額が、一定の上限を超えた場合に、その超過分が支給される制度です。
厚生労働省が2026年7月31日に更新した制度案内によると、2026年8月からの制度では、70歳未満で年収約370万円から約510万円の人が、総医療費100万円の治療を受けた場合、自己負担額は約9万3,000円まで抑えられる例が示されています。
ただし、これは特定の所得区分における1か月の保険診療費の計算例です。すべての患者に同じ上限額が適用されるわけではありません。
また、2026年8月からは年間上限も設けられ、長期療養者の負担を軽減する仕組みが追加されています。直近12か月に高額療養費の対象となる月が3回以上あった場合、4回目以降の自己負担をさらに軽減する多数回該当もあります。
高額療養費制度の対象にならない費用
注意したいのは、入院にかかるすべての費用が高額療養費制度の対象になるわけではないことです。
一般的に、次の費用は高額療養費制度の対象外です。
- 入院時の食事代
- 差額ベッド代
- 保険適用外の医療サービス
- 先進医療にかかる費用
- 医療費とは別に発生する生活関連費用
人工呼吸器を使用する患者が長期間入院する場合は、医療費だけでなく、入院生活に伴う費用や退院後の介護体制も含めて考える必要があります。
在宅人工呼吸療法などは、医学的な条件を満たせば健康保険の適用対象となる場合があります。機器の管理や緊急時の対応、訪問診療などについても、医療機関や保険者に確認しておくと安心です。

【重要な違い】延命治療と緩和ケア、終末期医療の実態
延命治療と緩和ケアは対立するものではない
延命治療と緩和ケアは、必ずしもどちらか一方を選ぶものではありません。
緩和ケアとは、生命を脅かす病気に直面している患者とその家族に対し、身体的な痛みだけでなく、精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛を和らげ、生活の質(QOL)を高めるための医療や支援です。
緩和ケアは、治療を諦めた患者だけが受けるものではありません。がんなどの病気では、診断された早い段階から、病気そのものに対する治療と並行して受けることができます。
たとえば、がんの治療を続けながら痛みを抑える薬を使用したり、呼吸困難や不安を軽減するための支援を受けたりすることができます。
一方、生命維持治療の終了や差し控えを選択した場合にも、苦痛を取り除くための治療やケアは続きます。
2026年9月の4学会合同ガイドラインでも、生命維持治療の終了後に緩和ケアを提供する重要性が明確に示されています。人工呼吸器などの生命維持装置を終了したからといって、患者への医療や看護まで終わるわけではありません。
終末期医療とは何か?いつから終末期と判断されるのか
終末期医療とは、病気や障害の進行によって人生の最終段階を迎えた患者に対して行われる医療やケアを指します。
ただし、終末期を判断する明確な日数や年齢が決まっているわけではありません。がん、心不全、呼吸器疾患、神経難病など、病気の種類によって経過や予後が異なるためです。
また、回復が難しいと考えられていた患者の状態が改善する可能性もあり、医療者は病状や治療への反応を継続的に評価します。
2026年9月に公表された4学会合同ガイドラインも、救急・集中治療の場面で「終末期」を一律に定義することを避けています。病名や年齢だけで判断せず、医学的な見通しと本人の価値観を踏まえた個別の検討を重視しているためです。
生命維持治療の終了と安楽死は違う
延命治療を受けない選択や、適切な意思決定プロセスを経た生命維持治療の終了について、安楽死と同じものだと誤解されることがあります。
しかし、両者は目的が異なります。
生命維持治療の終了や差し控えは、患者本人の意思や医学的・倫理的な妥当性を踏まえ、これ以上の生命維持治療を行わず、病気や傷害の自然な経過を受け入れる判断です。生命を短縮させることを目的とするものではありません。
一方、積極的安楽死は、薬物などによって意図的に生命を終わらせる行為です。日本の医療制度において、通常の治療差し控えや緩和ケアと同一視することはできません。
4学会合同ガイドラインも、生命維持治療の終了・差し控えと安楽死は異なるものであると整理しています。
【選択と判断基準】延命治療をしない選択や中止はできる?
延命治療をしない選択は可能なのか
本人が治療内容について十分な説明を受け、意思決定できる状態であれば、人生の最終段階における医療やケアについて、自分の希望を伝えることができます。
人工呼吸器を希望するか、心肺蘇生を受けたいか、胃ろうによる栄養補給を望むかなど、医療処置ごとに希望を整理することも可能です。
ただし、治療を希望しないという意思表示だけで、医学的な検討や医療・ケアチームとの話し合いが不要になるわけではありません。
病状や回復の可能性、治療の効果、身体的負担などを確認し、本人の価値観に沿った方針を検討することが基本です。
延命治療の中止・差し控えを判断する基準
延命治療の終了や差し控えを検討するときは、主に次の4つの観点が重要になります。
- 医学的な見通し:病気の状態、回復の可能性、治療によって期待できる効果と限界。
- 本人の意思:現在の希望、過去に話していた価値観、ACPや事前指示書の内容。
- 生活の質:治療を続けた場合に予想される生活、身体的苦痛、本人が大切にしていること。
- 周囲の状況:家族や信頼できる人の考え、介護体制、社会的な支援、療養環境。
特に重要なのは、治療を続けることが患者本人にとってどのような意味を持つのかを考えることです。
生命を維持できるかどうかだけでなく、治療によって本人が望む生活に近づけるのか、苦痛が増える可能性はないか、本人が何を大切にしているのかを多角的に検討します。
2026年9月に公表された4学会合同ガイドラインの重要性
2026年9月28日、日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本循環器学会、日本緩和医療学会の4学会は、「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」を公表しました。
これは、2014年に3学会が公表した救急・集中治療における終末期医療のガイドラインを改訂したものです。
新ガイドラインでは、特定の患者に対して一律に治療を続ける、あるいは終了するという結論を示すのではなく、本人にとって最善の医療やケアを検討するための意思決定プロセスを重視しています。
主なポイントは次のとおりです。
- 多職種による医療・ケアチームで臨床倫理的な検討を行う。
- 患者本人や家族等との共同意思決定(SDM)を重視する。
- 本人の意思を確認できない場合は、過去の希望や価値観から推定する。
- 治療の開始、差し控え、終了について個別の状況に応じて判断する。
- 生命維持治療を終了した後も、症状緩和や緩和ケアを継続する。
- 意思決定の経緯を診療記録に残し、必要に応じて繰り返し見直す。
また、新ガイドラインでは、期限付きの特定の治療の試行(Time-Limited Trial:TLT)も明記されました。
これは、一定期間だけ治療を試し、その間の身体状態や治療効果を確認してから、継続するかどうかを改めて話し合う考え方です。
たとえば、人工呼吸器による治療を一定期間行い、肺機能の改善や意識状態、全身状態の変化を確認したうえで、今後の治療目標を検討する方法が考えられます。
一度始めた治療は絶対にやめられないという考え方を避け、治療開始前から評価する時期や判断材料を共有しておくことがポイントです。
なお、この4学会合同ガイドラインの対象は、主に救急搬送や集中治療室への入室など、急性期病院における意思決定です。すべての医療現場にそのまま当てはめるのではなく、厚生労働省のガイドラインなどと併せて理解する必要があります。

【本人と家族の意思決定】ACP・DNAR・リビングウィルの活用方法
ACP(人生会議)とは?本人の希望を事前に共有する取り組み
ACPとは、アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)の略称です。厚生労働省は、ACPを「人生会議」という愛称で普及させています。
人生会議とは、将来、自分が病気や認知機能の低下などによって意思を伝えられなくなった場合に備え、希望する医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取り組みです。
人生会議で話し合う内容は、延命治療を受けるかどうかだけではありません。
- どのような治療を受けたいか、受けたくないか。
- 人工呼吸器や胃ろうなどを希望するか。
- 心停止時に心肺蘇生を希望するか。
- どのような生活を大切にしたいか。
- 人生の最終段階をどこで過ごしたいか。
- 自分の意思を伝えられなくなったとき、誰に希望をくみ取ってほしいか。
話し合った内容は、必要に応じて書面に残し、家族や医療・介護関係者と共有します。本人の気持ちは時間の経過や健康状態によって変わるため、一度決めた内容に固執せず、何度でも見直すことが大切です。
人生会議はどのくらい普及している?厚生労働省の意識調査
厚生労働省が公表している令和4年度の「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」では、一般国民3,000人を対象に、人生会議についての意識が調べられています。
人生会議の進め方については、57.3%が賛成と回答しました。一方、人生の最終段階に受けたい医療や受けたくない医療について、家族や医療・介護従事者と詳しく話し合っている人は1.5%にとどまっています。
また、28.4%は一応話し合っていると回答したものの、68.6%は話し合ったことがないと回答しています。
この結果からは、人生会議に対して肯定的な考えを持つ人が一定数いる一方で、実際の話し合いには十分につながっていない状況がうかがえます。
延命治療について考えることは、死を意識することだけではありません。自分が大切にしている生活や価値観を、元気なうちに周囲へ伝える機会でもあります。
リビングウィルと事前指示書の違い
リビングウィルとは、将来、自分で医療に関する意思を伝えられなくなった場合に備え、希望する治療や受けたくない医療処置などを事前に書面で示しておくものです。
事前指示書は、人生の最終段階における医療やケアについて、本人の希望を記録する書面の総称として使われます。リビングウィルも、その一種として位置づけられます。
記載する内容の例は次のとおりです。
- 心肺蘇生を希望するかどうか。
- 人工呼吸器による生命維持を希望するかどうか。
- 胃ろうや経管栄養による栄養補給を希望するかどうか。
- 点滴による水分補給を希望するかどうか。
- 苦痛を和らげる緩和ケアをどのように受けたいか。
- 自宅、病院、介護施設など、希望する療養場所。
- 意思を伝えられなくなったときに相談してほしい人。
日本では、事前指示書に書かれた内容に従って治療方針を決めることを一律に義務付ける法律は整備されていません。
2025年2月25日の政府答弁書でも、事前指示書に法的拘束力を持たせる方向での法整備を検討する考えはないと説明されています。
ただし、書面が無意味ということではありません。本人の価値観や希望を医療・ケアチームが理解し、本人の意思を推定するための重要な資料になります。
作成した書面は自宅に保管するだけでなく、家族やかかりつけ医にも存在を伝えておきましょう。希望が変わった場合は、書き直して共有することも大切です。
DNAR(蘇生措置拒否)とは?延命治療をすべて拒否することではない
DNARは、Do Not Attempt Resuscitationの略で、心停止時に心肺蘇生を行わないという医師の指示を意味します。
本人の意思や価値観を確認し、心停止時に胸骨圧迫、除細動、気管挿管などの蘇生処置を行わない方針を医療・ケアチームと共有するものです。
ここで非常に重要なのが、DNARはすべての治療を拒否する指示ではないという点です。
日本集中治療医学会の従来の勧告に加え、2026年9月に公表された4学会合同ガイドラインのQ&Aでも、DNARは心停止時の心肺蘇生に限られる指示であり、抗菌薬、酸素投与、輸液、栄養補給、鎮痛・鎮静などを自動的に中止するものではないと明確に説明されています。
たとえば、DNARの指示がある患者が肺炎になった場合でも、本人の病状や治療方針に応じて抗菌薬や酸素投与を行うことは可能です。
「DNARに同意したから、もう治療を受けられない」という理解は誤りです。
DNARと生命維持治療の終了・差し控えは、別々の医療判断として検討する必要があります。
延命治療について家族が判断に迷ったときの考え方
本人が意識を失っていたり、認知機能の低下によって意思表示が難しくなったりすると、家族が医療方針について話し合う場面があります。
その際、家族に求められるのは、自分自身の希望だけで治療方針を決めることではなく、本人がどのような医療や生活を望んでいたかを医療・ケアチームと一緒に考えることです。
2026年の4学会合同ガイドラインでも、本人の意思を確認できない場合には、家族等と医療・ケアチームが本人の希望や価値観を推定し、その意思を尊重する考え方が示されています。
本人の意思が推定できない場合には、家族等と医療・ケアチームが十分に話し合い、本人にとって何が最善なのかを検討します。
家族間で意見がまとまらない場合や、医療者との合意形成が難しい場合には、病院の臨床倫理委員会や臨床倫理コンサルテーションチームなどに相談することもできます。
判断を迫られたときは、次の質問を主治医に確認すると、話し合いを整理しやすくなります。
- 現在の病状と、今後予想される経過はどうなっているか。
- 治療を続けた場合、どのような回復が期待できるか。
- 人工呼吸器や胃ろうを使用することで、本人の生活はどう変わるか。
- 治療による苦痛や身体的負担には何があるか。
- 一定期間治療を試してから、改めて判断することはできるか。
- 生命維持治療を終了した場合、どのような緩和ケアを受けられるか。
家族が一人で答えを出す必要はありません。本人の過去の発言や価値観、医療者からの説明をもとに、関係者が一緒に考えることが大切です。
【プロの結論】延命治療を考えるときに知っておきたい判断のポイント
延命治療について考える際、最も大切なのは「生命を長く保つこと」と「本人が望む生き方を実現すること」を分けて考えないことです。
医療技術が進歩したことで、以前なら救命が難しかった状態でも、人工呼吸器や補助循環装置などによって生命を維持できるようになりました。しかし、生命を維持できることと、本人が望む生活に戻れることは同じではありません。
そのため、治療の選択では、単に医療機器を使うかどうかだけでなく、治療によって期待できる回復、身体への負担、本人の価値観、家族や周囲の支援体制まで考える必要があります。
延命治療を検討する際の具体的な判断基準
次の5つのポイントを整理すると、本人や家族にとって納得できる話し合いにつながりやすくなります。
1.治療によって回復する可能性があるか
一時的な病気による機能低下なのか、回復が難しい慢性的な状態なのかを確認します。回復の見込みがある場合には、治療を一定期間試す選択肢も検討できます。
2.治療によってどのような生活が期待できるか
生命を維持できた場合、意識や身体機能はどの程度回復する可能性があるのか、会話や食事、移動などができる見込みはあるのかを確認します。
3.本人が何を大切にしていたか
本人が望んでいた生活や価値観を振り返ります。延命治療を希望していたかどうかだけでなく、苦痛をできるだけ避けたい、家族と過ごしたい、自宅で生活したいなど、本人が大切にしていたことを共有します。
4.治療を受けない場合の医療やケアはどうなるか
生命維持治療を差し控えたり終了したりしても、痛みや呼吸困難、不安などへの対応は続きます。緩和ケアの具体的な内容を事前に確認しておきましょう。
5.家族だけで抱え込まない体制があるか
主治医、看護師、緩和ケアチーム、医療ソーシャルワーカーなどに相談し、必要に応じて臨床倫理委員会の支援も受けられるか確認します。
特に、年齢や障害の有無、介護負担、経済的事情だけを理由に、治療の価値や本人の生命の価値を低く評価してはいけません。2026年の4学会合同ガイドラインも、本人の価値観に基づいた最善の医療・ケアを多職種で検討することを重視しています。
【延命治療とは】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:延命治療をしないと決めたら、すべての医療を受けられなくなりますか?
A1:いいえ。人工呼吸器や心肺蘇生などの生命維持治療を希望しない場合でも、痛みを抑える薬、呼吸困難への対応、精神的な支援、看護や介護などは継続できます。どの医療を受けるかは、本人の希望や病状を踏まえて個別に検討します。
Q2:延命治療の費用は月額いくらですか?
A2:治療の種類や入院期間、保険の適用範囲、年齢、所得などによって異なるため、一律の金額はありません。公的医療保険の対象となる治療では高額療養費制度を利用できる場合があります。2026年8月以降の制度では年間上限も設けられているため、加入している健康保険の窓口で確認しましょう。
Q3:DNARと延命治療の拒否は同じ意味ですか?
A3:違います。DNARは心停止時に心肺蘇生を行わないという限定的な指示です。人工呼吸器や酸素投与、抗菌薬、点滴、栄養補給など、心肺蘇生以外の医療をすべて拒否するものではありません。その他の治療については、別途本人の意思や医学的な妥当性を踏まえて検討します。
まとめ:延命治療は本人の意思と納得できる医療の選択が大切
延命治療とは、人工呼吸器、胃ろう、心肺蘇生、人工透析などによって生命を維持する医療を指す一般的な言葉です。ただし、同じ医療処置でも、回復を目指す治療なのか、長期的な生命維持を目的とするのかによって、その意味は大きく異なります。
2026年9月に公表された4学会合同ガイドラインは、生命維持治療の終了や差し控えについて、医療・ケアチームによる多角的な検討と、患者・家族等との共同意思決定を重視しています。また、生命維持治療を終了した後も、緩和ケアを継続することを明確にしています。
本人が元気なうちからACP(人生会議)を通じて希望を共有し、リビングウィルや事前指示書に記録しておくことは、将来の家族の負担を軽減することにもつながります。
延命治療を受けることも、受けないことも、単純に正解・不正解で判断できる問題ではありません。大切なのは、医学的な情報を十分に理解し、本人が何を望み、どのような人生を大切にしてきたのかを踏まえて選択することです。
もしものときに家族が迷わず本人の希望を伝えられるよう、日頃から医療やケアについて話し合う機会を持っておきましょう。
主な根拠資料(2026年10月30日時点)
- 厚生労働省「人生会議」「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」
- 日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本循環器学会・日本緩和医療学会「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」(2026年9月28日公表)
- 国立長寿医療研究センター「胃ろうを勧められた時にどのように考えたらよいですか?」
- 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(2026年7月31日更新)
- 第217回国会・参議院答弁書(2025年2月25日) (出典: 延命 治療 と は(Yahoo!ニュース))